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イレギュラー・リズム・アサイラム
160-0022 東京都新宿区新宿1-30-12-302
tel:03-3352-6916 | email: info@ira.tokyo
新しいホームページ: http://ira.tokyo
営業時間 13:00〜20:00(月・水定休)

IRREGULAR RHYTHM ASYLUM
1-30-12-302 Shinjuku, Shinjuku-ku Tokyo 160-0022
tel:03-3352-6916 | email: info@ira.tokyo
website: http://ira.tokyo
Opening Hours 13:00〜20:00 (Closed on Mondays and Wednesdays)
ラナウで版画ワークショップ

文・Risa

ラナウ到着

ラナウのバスターミナルにパンクロック・スゥラップのRizoが迎えに来た。近くの店舗ビルにあるプリントショップにまず案内される。小さな自営のお店はインフォショップのように壁の情報量がすごい。マレーシアのパンクバンドや労働運動のシルクスクリーン・プリント、ガイ・フォークスの仮面、ガンジーのステンシル、そしてボルネオの先住民族のモノクロ写真まで、飾ってあるものの内容も幅広い。Rizoの弟が学校の休暇中で店を手伝っている。プリントショップは地域の人からそれなりに注文が入るという。お店から駐車場まで顔見知りらしい人たちと次々に挨拶を交わす二人の後ろを歩きながら、かれらの地元に来たという実感がわいてくる。

プリントショップ
店舗シャッター。週7日営業。

山のふもとの田園生活

Rizoと連れ合いのMemetの家はパンクロック・スゥラップのスタジオを兼ねていて、以前は幼稚園として使われていた広い一軒家。山のふもとの田園生活がここにある。庭先のバナナの木のあいだにキナバル山が見え、隣の空き地では牛がのんびり草を食べている。玄関先の箱の中ではにわとりがそっと座って卵を暖めている。数日前に半島部マレーシアのツアーから二人が家に戻ると、留守中に迷い込んだこの雌鶏が待っていた。世界一大きい花で有名なラフレシアがちょうど開花の時期で、近所の裏山まで見学に。雨上がりでぬかるんだ山道にサンダルの足もとは滑って泥だらけになるが、手すりのおかげでたどり着いた。

世界一大きい花ラフレシア。奥につぼみも見える。

パンクロック・スゥラップのお客さんたち

家ではサバ州を周遊しているスウェーデンからの旅人も一緒だった。穏やかなパンクスのカップルで、フェイスブックでラナウ拠点のパンクロック・スゥラップを見つけ訪ねてきた。パンクロック・スゥラップのところには、これまでもDIYパンクのつながりで東南アジアを旅するヨーロッパやラテンアメリカからのバックパッカーが遊びに来ている。

ちなみに日本からはVivisickが去年5月にサバ州ツアーでコタキナバル、ラナウ、サンダカン、クニンガウを周り、パンクロック・スゥラップの仲間たちもライブを楽しんでサポートもしたり一大イベントだったらしい。VivisickのTシャツを着たMemetと世界遺産のキナバル自然公園に行ったときは、通りがかりの若者から「わたしの好きなバンド」と声をかけられていてビッグネームぶりにびっくり。

そして去年の6月には、インドネシアのマージナル(Marjinal)のマイクとボブたちがこの家に来てワークショップを開いた。パンクロック・スゥラップのDIY精神と深くつながっているマージナルは、タリン・バビという自律的コミュニティとしても知られ、1997年からジャカルタに共同生活の場所を開いてきた。パンクロック・スゥラップは「マージナルと一日ワークショップ」という彫刻刀と手足をあしらった幕絵(バナー)を事前につくり、マージナルを迎えた。みんなで版画を彫り、土地のシンボルであるキナバル山に託した「共に学ぼう キナバルの子どもたち」という、かれららしい木版画もうまれた。タトゥーの腕も振い、食事を一緒に作って分け合い、歌を歌い、いろいろなことを語り合った。「どうやって生きるのかを学んだ」とRizoはマージナルのことをとてもリスペクトしている様子で、そのときのことを話してくれた。

ラナウでマージナルと(提供:Pangrok Sulap)

マージナルはパンクロックとインドネシアのローカルな音楽文化を融合させた独自の楽曲が魅力的だが、サバ州ツアーではボルネオのご当地ソングも持ち歌にしていた。サバの先住民族ドゥスンの歌謡曲”Aramaiti”のカバーや、キナバル山を歌った民謡”Tinggi Tinggi Kinabalu”を披露して、ますますみんなのハートを掴んでいた。


タリン・パディの影響

ラナウには自分の好きな本を人の本棚に見つけるうれしさもあった。Rizoの家にもジョグジャカルタのタリン・パディの作品集『暴政を粉砕する芸術』が置いてある。IRAの壁を飾っていたタリン・パディのカレンダーも、この家の壁にかかっている。

ラナウに来て、パンクロック・スゥラップのなかまと会って、思い出した歌がある。ある時タリン・パディの古いメンバーがそれぞれの旅の途中でジョグジャから離れたオーストラリアで再会して、久しぶりの尽きない話はそこにあったギターとジャンベが思い出の歌もよみがえらせて趣を深めていた。「ええと、タリン・パディの歌は・・・」とコードや拍子を思い出しながら歌い出した”Sama-sama” (共に)だ。

belarja sama-sama     一緒に学ぼう
bertanya sama-sama   一緒に問い求めよう
berkerja sama-sama    一緒に働こう

semua orang itu guru みんなが先生
alam raya sekolahku  大きな地球がわたしたちの学校
sejahteralah bangsaku われら民衆に平和を
(『暴政を粉砕する芸術』p.237)

RizoとMemetの家にはパンクロック・スゥラップの仲間たちが6、7人集まり、ジャンベとウクレレ、マラカスとタンバリンでゆるくセッションが始まり賑やかになる。日本では見たことがないサバ特産の果物タラップも出てきた。みんながラナウに住んでいるわけではないが、折々にRizoとMemetの家に集まり一緒の時間を過ごしてきた。


版画ワークショップ

夜ごはんの後、版画とシルクスクリーンのプリント・ワークショップが始まる。版画の道具はできるだけ余計なお金を使わず揃えるように工夫していて、版木は地元の製材所からベニヤ板を安く分けてもらい、インクは新聞印刷工場から余りをもらっている。タリン・パディの版画制作の様子でよく見られるように、パンクロック・スゥラップも刷りはバレンではなく足を使う。版木の足踏みはちょっとステップを踏むような躍動感があると思っていたが、それは体の重さや足の筋肉のしなやかさにもよるみたいだ。躍動感のあるなしはさておき、数ヶ月前にネットで見てすっかり気に入った木版画「ビーズは死なず」をラナウまで来て自分の足で刷っているのは、なかなかすごいことかもしれない。

足踏みしながら刷る

「違いを祝おう」 刷り上がりは洗濯ばさみで吊して乾かす。

シルクスクリーンTシャツプリント

片付けでシルクスクリーンを玄関ポーチで水洗いしていると、夜の闇に浮かぶ樹木のシルエットの彼方からカラオケらしき歌声が聞こえる。お祭りでもあるのかと聞いたら、「いつも向こうの家で歌っているよ。あ、これはお母さんの声じゃないかな」とちょっとおもしろい答えがRizoから返ってきた。家の中ではMemetが音頭をとってUNOが始まっていた。山の麓の夜は気持ちのよい涼しさでぐっすり寝ることができた。


マージナル来日中

今回紹介したマージナルはちょうど来日中で、各地でライブ、版画ワークショップ、そして中西あゆみ監督によるドキュメンタリー映画「マージナル」の劇場公開と企画が続いている。もっと知りたい、もっと知ってほしいマージナルの世界をぜひこの機会に!

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