文・Risa
「ビーズは死なず」:風まかせでボルネオ島に
偶然と勢いが重なり、マレーシアのDIY版画アーティスト集団パンクロック・スゥラップ(Pangrok Sulap)を今年の1月に訪ねた。去年9月にマレーシアのオンラインニュースで紹介されていた版画に目がとまった。マレーシアのサバ州のDIY版画コレクティブの作品だという。「パンクは死なず(Punks Not Dead)」ならぬ「ビーズは死なず(Beads Not Dead)」という文字に、エスニックな編み笠をかぶりたっぷりしたビーズのイヤリングとネックレスをつけ、手の表情が印象的な女性の木版画だ。女性を囲むように彫られている曲線がさらに不思議なオーラを出しているモノクロの木版画。「マレーシアのタリン・パディ!」と一目見て思った、インドネシアのアーティスト集団タリン・パディ(Taring Padi)の影響が感じられる作風。パンクを経由したローカルなビーズのメッセージ。マレーシアの文化的中心である半島部のクアラルンプールやペナンといった都市ではなく、ボルネオ島のサバ州ラナウというキナバル山麓の田舎町を拠点にしている版画アーティスト集団。こうした気になるポイントがいくつもあり、この版画コレクティブへの関心を掻き立てられた。それから3ヶ月後、風に吹かれるように、そしてAir Asiaの格安航空チケットを手にサバ州ラナウにパンクロック・スゥラップを訪ね、思った通りのすばらしい人たちに会えた。
"Beads Not Dead"(写真提供・制作:Pangrok Sulap) |
名前のこと。Pangrok Sulapのpangrokはパンクロック。Sulapはマレー語では野良仕事の合間に一休みする小屋。メンバーの多くもそうであるサバ州の先住民族のドゥスンの言葉では農園を意味する。「野良仕事休憩小屋あるいは農園のパンクロック」という、ローカルな生活風景と国境を越えた音楽文化をミックスさせたコレクティブの名前だ。
ラナウのスゥラップでひと休みするPangrok Sulapたち。(写真提供:Pangrok Sulap) |
よりみち:クアラルンプールのパンクフェス「カオス・イン・ルマアピ」
マレーシアはタイとシンガポールの間に位置する半島部マレーシアと、南半分はインドネシア領のボルネオ島北部のサバ・サラワク州と、地理的に二つに分かれている。羽田発AirAsiaで半島部の首都クアラルンプール(通称KL)に飛ぶ。セールだとチケットは片道1万5千円くらいで見つかる。
サバ州都コタキナバル行きの飛行機に乗り換える前にKLで数日過ごし、ルマアピという自主運営スペースでのDIYパンクフェスChaos in Rumah Apiに足を運んだ。マレーシア各地、インドネシア、シンガポール、韓国、スウェーデンのバンドがすごいことになっていた。若い男子ばかりでもなく、女の子たちも楽しんでいる。古い友だちとも再会。フィリピン、ロシア、コロンビア、イギリスなど世界各地のパンクスも来ている。建物の裏路地が解放区になり、焼きそば屋台、Tシャツの出店、ジョグジャカルタのバイオリン弾き、子連れ、たわむれて相撲をする太ったパンクス、道端で寝ているパンクスなどなど。あちらこちらでグループ写真撮影も盛り上がっている。マレー語とインドネシア語は関西と関東の言葉の違いくらいなので、マレー語が公用語のシンガポールも含め、マレーシア、インドネシアのパンクス はツアーやフェスなど行き来が盛んで仲がいい。国境をかなり越えている東南アジアのパンクスたちをうらやましいなと見ていたら、韓国のバンドScumraidのメンバーとは日本語で話しができて、東アジアも少しつながった。ちなみに混沌騒音祭りのはす向かいの中国寺院では信徒たちが読経をあげ続けていて、東南アジア的共生が印象的だった。
カオス・イン・ルマアピには、サバで会うはずのパンクロック・スゥラップのメンバーも来ていて、おかげで旅の段取りがうまくいった。かれらは版画ワークショップでツアー中だった。パンクロック・スゥラップの版画ワークショップは、ルマアピを始め半島部マレーシア各地のDIYコミュニティが受け入れを行い、こうしたDIYコミュニティはパンクシーンと重なっている 。
パンクロック・スゥラップ のマニフェストというべき版画"Don't Buy, Do It Yourself"(原題"Jangan Beli, Bikin Sendiri"、2013年)は、金槌と釘、筆、彫刻刀、シルクスクリーン用スキージと手仕事の道具をデザインして、かれらのDIY精神がとてもよく表現されている。
"Jangan Beli, Bikin Sendiri"(写真提供・制作:Pangrok Sulap) |
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