志賀直輝
私は、相方のノエちゃんと三月中旬からサパティスタ民族解放軍(以下、サパティスタ)の村でオブザーバーするためにメキシコのチアパス州に来ている。
1994年1月1日、北米自由貿易協定(NAFTA)がメキシコ、カナダ、米国の3国間で開始された日に、メキシコの最貧困層エリア・チアパス州で、先住民の農民たち・サパティスタが武装蜂起した。この協定によって3国間の間で貿易関税がなくなり、貿易が自由化された。結果、メキシコ国内には米国から大量に安い農作物(特にメキシコ人の主食、とうもろこし)が入り込んでくるようになった。米国の大量生産に太刀打ちできないメキシコの貧農や先住民たちは大打撃を受けた。そして多くの先住民たちは失業し農地を追われるか、生活が急激に苦しくなった。また農地を追われた先住民たちは、都市部のスラムに移り住むか、米国へ出稼ぎのため密入国し続けている。
▲EZLN
さらに、米国やカナダの企業は安い労働力と新たな工場建設を求めてメキシコに移ってきている。これらの工場はメキシコのある地区の公害を一年で2倍に膨れ上がらせた。さらに米国、カナダ、メキシコの白人・金持ちたちの一部は先住民の土地に眠る石油やウランを掘るために、ギャングを雇って先住民の強制排除計画を立てていた。
メキシコと呼ばれる地区は、現在の先住民といわれるマヤの人々が長年に渡り住み続けている。そこへ16紀初頭、アメリカ大陸を侵略していたスペインの白人たちによって植民地支配された。植民地後、マヤの人々は白人政府によって自分たちの文化、宗教、言語、生活を書き換えられ、奴隷として酷使されつづけた。また、「独立」後から現在にいたるまで、米国や一部の白人金持ちたちが先住民たちの大半の土地や仕事を握り、半端ないピンハネ(超搾取)を続けている。そんな中、94年の北米自由貿易協定はピンハネを法的に合法自由化する、先住民への「死刑宣告」となった。この「死刑宣告」が先住民たちの叫び「YA BASTA!もうたくさんだ!」という宣言につながった。そして先住民や貧農たちは武器をとった。
しかし、武装蜂起したサパティスタは従来の左翼ゲリラとはかなり異なる。従来の左翼ゲリラが政府から権力を取り返すことを目的にしてきたことに対し、サパティスタは権力奪取ではなく、先住民や貧乏人たちのふつうの生活・尊厳を取り返すための運動体・ネットワークだ。さらに、彼・女らは、政治的なわかりにくい言葉ではなく、自分たちの生活感ある言葉で世界に語り続けている。
彼・女たちはローカルな問題にはじまり、世界中の金持ちが世界各地の貧乏人を異常なほどにピンハネするシステム=グローバリゼーション=新自由主義を彼・女たちの言葉で激しく批判している。また、サパティスタの女たちは、メキシコや先住民社会に蔓延する男性優位社会、世界各地の男根社会=セクシズム(男らしさ、女らしさとかいう考え、性差別主義)=マッチョ(日本でいうなら武士道、大和魂、九州男児とかいって男根を振り回す男たち。また、女はフェラチオするのが当然と思い、自分はクンニしない男。マッチョのひとりである安倍元首相のいった「美しい国(クニ)」という政策より、今、本当に日本に必要なのはセクシズムを粉砕する「美しいクンニ」という性策!)を批判している。そのため世界中の闘う女たちから連帯とリスペクトを得ている。また、サパティスタの反乱副司令官マルコスはゲイやクイアたちにも連帯を示している。
そういったローカルかつグローバルな問題を彼・女たちは自分たちのメディア、自由ラジオ、インターネット=横のネットワークを通して世界中に発信している。この発信を受けた世界中の人々はサパティスタへ連帯と支援のレスポンスを返し続けている。
▲クルストン村の入り口とサパティスタ・バスケチーム
現在のサパティスタは、先住民への社会的な差別の廃絶、尊厳の回復を訴え、農地改革修正、新自由主義を反対し、政府と交渉と中断を繰り返している。そして今なお、チアパス州の各地にサパティスタの自治区が点在し、政府の介入から離れ、地道な自治活動が行われつづけている。
私は、相方のノエちゃんと、サンクリストバルにあるサパティスタ支援人権団体「フライバ」に参加した。この団体には世界中の活動家が参加している。特に、ドイツ、スペイン、バスク、アルゼンチンの若者の参加が多い。そして、私たちはドイツ人活動家のアンドレスと、サパティスタ自治区のひとつ、クルストンの平和キャンプへオブザーバー(インターナショナルの活動家が常時、サパティスタへの政府軍・パラミリターレス=政府側の私兵集団からの嫌がらせ・暴力を監視すること)として15日間派遣されることになった。
クルストンはサンクリストバルから車で1時間半、さらに馬で1時間のところにある。この村には、70世帯が住んでいる。クルストンがサパティスタに参加し始めたのは、今から2年前。しかし、すべての村人がサパティスタではない。70世帯のうち、半数以上が政府からの支援を拒否しサパティスタだ(政府からの支援といってもほとんどないに等しいと語っていた)。また、参加していない家族は、政府からの支援を受けている。政府は、自治区内の分裂を図るため、サパティスタを支援しない家庭にわざと多めに金を渡しているという。近隣の非サパティスタの他村は気のせいか、設備がクルストンよりよく見えた。
▲クルストンのとうもろこし畑
サパティスタに参加する村民たちは、定期的に話し合いを行っている。そして、土地を分配し、農地を耕している。男性たちは、村入口の監視小屋で常時、政府軍・パラミリターレスの監視を交代でしている(1997年12月22日、サパティスタ自治区のひとつ、アクテアル村内で極右私兵集団が男性9名、女性21名、子ども14名、乳児1名の45名を殺害し、40名へ負傷を負わせた)。女性たちは、共同組合をつくってパンなどの共同生産・販売をしている。
▲パンを作る女性たち
また、すべての家族が細々と農業を営んでいる。主にとうもろこし、それから牛、乳牛、鶏、トマト、玉ねぎ、バナナ、コーヒーなどを作っている。サパティスタの村で作られたコーヒーは欧米をはじめ、世界各地でフェアトレード・コーヒーとしてサパティスタ支援を目的に販売されている(IRAでも買える)。しかし、村の人たちはお金がまったくないため農薬すら買えない。農業機械もない。だから、とうもろこしや農作物を大量生産することはできない。メキシコ国内には関税のない米国の大量生産されたとうもろこしが売られている。当然、村は勝てない。だから、けっこうな数の男たちが米国に出稼ぎにいっている。
←サパティスタ・コーヒー。日本で買うならIRAへ
http://a.sanpal.co.jp/irregular/
村民の中で、農業を離れ一時的に米国へ出稼ぎにいっていた男を持つ家庭は、ブロックとトタン屋根の家に住んでいた。そこの子どもたちはボロだけど、少しだけキレイな服、靴やサンダルを履いていた。逆に出稼ぎにいっていない家庭は、今にも壊れそうな藁ぶき小屋に住んでいた。そこの子どもたちの服はボロボロで汚れ、裸足だった。村で仲良くなった15歳の青年は、私たちが村を出る日、米国へ出稼ぎのため密入国しにむかった。米国側には、米兵や極右のレイシスト私兵組織が銃を持ちメキシコから密入国する人々を待ち構えている。私は、彼が殺されずに密入国できることを節に願っている。
村の生活は最低に貧しい。それでも、この村の人々は「サパティスタの自治に参加しはじめてからの方が、政府の時より生活はマシになった!」と言う。例えば、この村では感染病などを防ぐために、水洗トイレがサパティスタによって普及された。男女含め子どもたちは、全員学校にいかなくてはいけない。金がないからといって、親が子どもたちを学校へ行かせないで働かすことができなくなった。特に、先住民の村は、女性に対しての差別が激しい。現在でも、女性は勉強をしなくてもいいというのが一般的だという。さらに、女性は自分で結婚相手を選ぶことはできず、焼酎一本や物と引き換えに売られたり、結婚させられている。しかし、サパティスタに参加した村は、女性も学校へいかなくてはいけない。さらに、親が子を売ったり、自由恋愛を妨害することができなくなった。それを破った両親は罰せられる。村は先住民女性たち自身が作った革命女性法を守らなくてはいけない。
▼EZLN革命女性法
1 すべての女性は、その人種、信仰、政治信条に関わらず、自らの意志と能力が決める範囲において革命闘争に参加する権利がある。
2 すべての女性は、仕事をし公正な給料を受ける権利がある。
3 すべての女性は、自らが産んで育てることのできる子どもの数を決める権利がある。
4 すべての女性は、村の問題に関わり、自由かつ民主的に選出されれば村の任務につく権利がある。
5 すべての女性とその子供たちは、健康と栄養について基本的な配慮を受ける権利がある
6 すべての女性は、教育を受ける権利がある
7 すべての女性は、自らのパートナーを選び、結婚を強制されない権利がある。
8 いかなる女性も、家族からであれ他人からであれ暴力や肉体的虐待を受けることがあってはならない。
9 すべての女性は、組織の指導部を担い、革命軍において軍の階級を持つことが可能である。
10すべての女性は、革命法および法規が定めるすべての権利と義務を持つ。
この革命女性法のせいか、特に女性と話をしていると、みんな熱くなって「サパティスタがいい!」といっていた。ひとりの子は、ずっと好きだった男の子と自由に結婚できるようになったと、目をキラキラさせていた。
とはいっても依然と、女性と男性の差はあるように感じた。女性は家事・育児に追われてるせいか、あまり外では見なかった。男性たちだけが、ずっとバスケットボールやサッカーなどをして遊んでいた。毎年、国際女性DAYでは、男性たちが家事・育児をし、女性たちがバスケやサッカーをしたり、女性の尊厳回復を訴える集会を行っている。
私たちは、日中は監視小屋に待機していた。まったく平穏だったため、特にやることはなかった。だから、毎日こどもや若者、おっさんたちと空手、柔道、相撲をやった。みんなすごい勢いでやっていた。政府軍から身を守らないといけないという状況がそうさせてるのかもしれない。
それから、子どもたちとステンシルをつくって、黒スプレーで壁に落書きした。人の家にやったら怒られて、次の日に消させられた。それでも、子どもたちはステンシルや落書きを続けていた。絵もいっぱい書いた。絵の具でみんなぐちゃぐちゃになった。そして、みんなで汚れた服や床を掃除した。
▼ステンシルで遊ぶこどもたち
▲みんなで絵を描いて展示。エミリアーノ・サパタとこどもの絵
子どもたちといろいろな遊びをした。一番人気だった遊びは、警察が泥棒を捕まえるゲーム「どろけい」だった。これを警察がサパティスタを捕まえるという「サパティスタ・ゲーム」に変えた。子どもたちの大半が、サパティスタになりたいと言った。それではゲームにならないから、ふたつに無理矢理わかれた。最初は、サパティスタが警察から銃を奪って、警察を全滅させたら勝ちという風にした。けど、警察は撃たれても死んだふりをしないから、いっこうに終わらなかった。その後は、ルールが自然と変わり、サパティスタが逃げ続けることができたら「勝ち」、というゲリラの鉄則が暗黙の了解となった。だからか、子どもたちは頭をつかって、戦略的に逃げたり、逆に警察を捕まえたりしていた。しまいに、複数のサパティスタが警察を囲んで、空手や柔道をつかって襲撃していた。これには腹を抱えて笑った。それから、警察の目を盗んで脱走する子もいた。警察になりきる子は、力でサパティスタを牢屋に押し込めていた。泣き出す子もたくさん出た。それでも、みんなこのゲームに興奮し、日が暮れてもやり続けた。本当におもしろかった。
▲ステンシルで遊ぶこども
▲EZLNとFREE PALESTINE
私たちは、集会場のイスで寝た。おかげで持病の腰痛がひどくなった。夜は、村全体に電気がとめられているため、ロウソクで過ごした。村の人たちは電気代が高くて払えない。それに政府への抗議を込めて不払い運動をしている。だから、電気がずっとなかった。子どもたちに「電気、欲しいか?」と聞くと「いらない、みんなで遊ぶから平気だ!」と元気に答えていた。電気はないが生命線である水は山から引いてるため使えた。ガスは当然買えないから、みんな薪で火をおこしていた。
しかし、今年の3月、サンクリスバルの市中心部の先住民地区では政府によって水道が2週間以上止められていた。サパティスタや先住民への政府からの抑圧は、陰湿にもジワジワと日々続いている。
サパティスタ自治区、クルストンはとても素晴らしいところだった。しかし、問題点も多々あった。空手をやりたいという子どもたちや若者に全員に教えていたら、一部のメンバーに呼び出され、サパティスタでない家族の若者には教えないでくれと言われた。ほとんど女の子たちが練習に参加できなかった。また、サパティスタとは仲の悪いらしい、新興宗教団体、福音主義・Evangelicaが村内でも勢力をあげているとのことだった。
それでも、サパティスタのメンバーは、熱く語ってくれた。「サパティスタは、我々、先住民の権利、尊厳、健康、医療、教育、栄養、土地、これらを守るために重要だ。これからも我々は闘いつづける」と。そして、私たちはクルスタンの仲間たちと、また会うことを約束し村を離れた。
私は、ここクルストンで多くのことを学ばせてもらった。金がなくても、なんでも自分たちでできること。既成の政党や、政府に頼る必要はないこと。政府のいう法律は、結局、政府や金持ちのためでしかないこと。難しい言葉や、ややこしい考え方がわからなくてもいいこと、もっと大事なことは、自分の言葉で自分たちの問題を語り、自分の手と足で行動すればいいこと。そして、楽しむこと。私もサパティスタだし、サパティスタはチアパスの山の中から世界中どこにでもいてつながってること。
何度でもいう。今も昔も、これからも、世界中の金持ちが私欲のために続ける競争や戦争、貧乏人の生活を犠牲にするシステム=資本主義は「YA BASTA!もうたくさんだ!」。いつだって、どこででも、いろんなやり方で抵抗できる。チアパスの山の中にもこんなにも仲間がうじゃうじゃいる!!文字通り、WE ARE EVERYWHERE!
¡Zapata Vive! ¡La Lucha Sigue!
サパタは生きているのだ!闘争は続くのだ!
▲学校の壁
▼追記1 CASA★KASAリニューアル!
サンクリストバルにある、日本人自主管理宿「CASA★KASA」が勝手にリニューアルされた。近所の先住民に向けて屋上には「NUNCA MAS CAPITALISMO(ノーモア資本主義)」のバーナーと赤黒旗が掲げられた。さらに、近所の住民たちが見えるところには「Las mujeres con dignidad rebelde(女性たちは尊厳を持って抵抗する)」と女性革命戦士の絵、また、みんながくつろぐ所には、女性革命戦士とエミリアーノ・サパタのPUNKS版、大杉栄の「はじめの行為ありき」と「美は乱調にあり」、鈴木清順の「一期は夢よ只狂え」、アンチファのコラボ、赤黒旗などが描かれた。ドミトリーの値段は一泊45ペソ(約300円)、自炊可、ワイファイ有。サパティスタ、先住民運動、ラテン・アメリカ運動史の文献、手塚治など漫画多数有。サパティスタのこどもたちへ文具を送ろう募金もあり。
▲CASA★KASAの屋上
▲▼みんなで書いた
▼大杉栄+清順+サパタPUNKS+女兵士
▼RLLのモデルさんと赤黒旗
▼ビーガン寿司大会
▼追記2 サパティスタの村でオブザーバーする方法。
Frayba(フライバ・人権団体)
http://www.frayba.org.mx/index.php
まず、どこかの団体に推薦状をもらう。サパティスタ・メキシコ先住民運動連帯関西グループでも推薦状を出してくれるという話(http://homepage2.nifty.com/Zapatista-Kansai/)。さらに、推薦状とパスポートとビザのコピーを持参し、毎週月曜日11時に事務所へゆく。スペイン語ができることが条件だが、情熱でなんとでもなる。事前に連絡をするなら bricos(at)frayba.org.mxへ。住所Calle Brasil 14, Barrio Méxicanos, 29240 San Cristóbal de Las Casas, Chiapas, México Tel:967 6787395
▼追伸3
これから5月1日のメーデーに合わせてキューバへゆく。都市農業を見て、その後、農村でただ働きする予定。キューバの後は、またサパティスタの村へゆくつもり。
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